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「何もできなかったことが、
一番悔しかった」
4度の救命現場が教えてくれたこと

GO!30 STORIES第3回は、応急手当指導員のAさん(仮名)にお話を伺いました。Aさんはこれまでに、目の前で人が倒れる場面に4度遭遇し、実際にAEDを使った救命処置を行ってきた方です。お寺で、ファミリーレストランの駐車場で、そして駅の改札前で。その体験は「AEDはあるのに、使えない」という日本の現実と、それでも人の手で命がつながる瞬間の両方を教えてくれます。

さらにAさんは、小学生の一言をきっかけに、子ども向け救命講習「PUSHプロジェクト」を地域の学校へ広げ、お住まいの市のコンビニ全店へのAED設置も実現させてきました。講習では教えてくれない現場のリアルから、次世代へ思いをつなぐ活動まで、じっくりとお話を伺いました。なお、ご本人およびご家族、関係者のプライバシーに配慮し、お名前と地域名は伏せた形で掲載しています。

駅構内に設置されたAED

妻が倒れた日。「何もできなかった」悔しさから始まった

谷山: 本日はお時間をいただきありがとうございます。GO!30 AED PROJECTへのAさんからのコメントが一番最初で、本当に嬉しかったんです。まずは、Aさんがこうした活動を始められたきっかけから伺えますか。

Aさん: 僕はある地方の小さな市に住んでいます。もともと救命活動をしていたわけではなくて、以前勤めていた会社で、消防署の普通救命講習を3年に1回くらいの割合で受けていた程度でした。それが2012年頃、一緒に仕事をしていた女房が突然倒れてしまったんです。講習を受けていたはずなのに、いざとなったら何もできなかった。とりあえず119番通報をして、女房はそのまま病院に搬送されました。

谷山: それが原体験になったんですね。

Aさん: そうですね。幸い女房は入院して退院できたのですが、自分の中で、何もできなかったことが一番悔しかった。それでまず応急手当指導員という資格を取って、知識や手技をしっかり学び始めました。僕の住む市では、指導員が集まってボランティアで、消防署の方と一緒に各地で救命講習の指導をしていて、僕も勉強がてら参加させてもらうようになったんです。

AEDは「あった」のに。お寺で、ファミリーレストランで

谷山: 消防署の方も「実際に人が倒れる場面に遭遇することはそんなにない」とおっしゃいますよね。

Aさん: 僕もまずないだろうと思っていました。ところが実際には4回遭遇しているんです。1回目は2015年。知り合いとお寺に講話を聞きに行ったときでした。最前列に座っていた方が、いきなりバタッと倒れてしまって。一緒に行っていた方も応急手当指導員で、しかも先輩でしたから、動きが早かった。2人で救命処置にあたりました。

谷山: そのお寺にAEDはあったんですか。

Aさん: あったんです。あったんですけど、バッテリー残量がほとんどない状態でした。インジケーターにうっすらとバツ印が出ていて。それでも電源を入れると稼働はしたので、1回ショックを行った後、近くの消防署からすぐに駆けつけた救急隊に引き継ぎました。その方は助かったと後から聞いています。ただ、あのまま誰も使わずにいたら、電池が完全に切れて「AEDはあったけど使えませんでした」ということになっていたかもしれません。住職も、購入したら自分でメンテナンスしなければいけないということ自体をご存じなかったんです。

谷山: 設置されていても、管理されていなければ意味がない。まさに私たちが問題意識を持っているところです。2回目はいつ頃ですか。

Aさん: その3年後、2018年頃です。ファミリーレストランに行ったら駐車場に人だかりができていて、見に行くとおじいさんが倒れていました。ご家族もいらっしゃったんですが、何も手が出せない状態で、119番通報だけして見ているだけ。「どのくらい経っていますか」と聞いたら、もう3〜4分経っていると。これはまずいということで、僕と女房と女房の妹の3人で救命処置に入りました。

谷山: そのときAEDは。

Aさん: ファミリーレストランにはなくて、大通り沿いだったので女房に周りのお店を見てきてもらったんですが、近辺にはありませんでした。ただひたすら胸骨圧迫を続けて、救急隊に引き継ぎました。後で車で周辺を回ってみたら、地元の公民館にはAEDがあったんです。でも公民館の中。利用時間しか開いていないので、あるけれど取り出せない、使えないという状況でした。

谷山: 熊本でもまだまだ屋外設置は進んでいなくて、公民館の中にあるのが普通です。だからこそ私たちは今、屋外設置を提案しているところなんです。

駅の改札前で。講習では教えてくれない「リアル」

谷山: メールでいただいていた駅でのお話が3回目なんですね。

Aさん: 3年ほど前です。その日は午後から救命講習の指導に行く予定で、車で出ようとしたらエンジンがかからない。JAFは2時間かかると言われ、知り合いの車屋さんも休み。仕方なく、普段はほとんど使わない電車で行くことにしたんです。駅へ向かう通路を歩いていたら、15〜20メートルほど先を歩いていた男性が、後ろから見ていてふらふらと違和感があって。改札の手前でよろめいて、バタッと倒れてしまったんです。

谷山: 救命講習に向かう途中で、目の前で人が倒れた。

Aさん: すぐに駆け寄りました。たまたま駅に向かっていた高校3年生の女の子も駆けつけてくれて。意識確認、呼吸確認をして反応がない。声をかけると駅員さんがすぐ来てくださったので、AEDをお願いして、119番通報もしてもらいました。AEDはすぐに使えて、1回目のショックを実施。あとは彼女と交代しながら、必死に胸骨圧迫を続けました。

人形を使った胸骨圧迫の訓練

谷山: 実際の現場だからこそ分かったことはありますか。私は普及員として活動していても、実際にAEDを使ったことも胸骨圧迫をしたこともないので、ぜひリアルなお話を伺いたいです。

Aさん: 講習で使う人形はバネが入っているのでしっかり戻ってきますよね。実は本物の人間も、正しく押せていればしっかり戻ってくるんです。最初は力が入らないんじゃないかと思っていましたが、押さなきゃいけないという頭があるから、グッと押せば5センチしっかり沈む。ためらったら押せませんが、押せば沈むし、戻ってくる。これは実際にやってみないと分からない感覚でした。音はまったくしません。人形よりは力が要ると思います。

谷山: 電気ショックのときは、体が浮いたりするんですか。

Aさん: 浮くというより、ビクッと反応する感じですね。それから、講習の訓練用パッドと実物のパッドはまったく違います。僕はこのとき、パッドを貼るのに1回失敗しているんです。剥がしたパッドがペロンとひっくり返って、くっついてしまった。一瞬焦りましたが、予備のパッドがあることを知っていたので対応できました。カバーを開けたときに中に何が入っているか確認していて、予備のパッドやハサミが入っているのが見えていた。あれを見ていなかったら、お手上げだったかもしれません。

谷山: そうした細部は、どれだけリアルな状況を再現する講習でも伝えきれない部分ですね。倒れた方はその後どうなったんですか。

Aさん: 2回目の解析では「ショック不要」となり、ひたすら胸骨圧迫を続けました。救急隊が到着して、人手が足りないということでLUCASという自動胸骨圧迫の機械を装着し、処置をされているときに、その方の意識が戻ったんです。「うーん」といううめき声が聞こえて。搬送のとき、顔なじみの救急隊の方に「どうなの」と聞いたら、「大丈夫、大丈夫」と言ってくださいました。

谷山: 最初の1回の電気ショックがなかったら、まったく違う結果になっていたかもしれませんね。

Aさん: そう思います。もうひとつ、後から分かった話があるんです。一緒に胸骨圧迫をしてくれた高校3年生の女の子。実は彼女が高校2年生のとき、僕がその学校に救命講習の指導に行っていたんです。「おじさん、話しに来てくれましたよ」と教えてくれて。だから一連の流れが分かっていたと。

谷山: すごいご縁ですね。ちなみにその日の講習は。

Aさん: 電車を1、2本逃してしまったので、事情を説明して時間をずらしてもらいました。でも、講習よりも目の前の人のほうが大事ですから。

小学6年生の一言から。子どもたちへ広げた「PUSH」の輪

谷山: Aさんは子ども向けの救命講習「PUSHプロジェクト」の普及にも取り組まれてきたそうですね。読者の方はご存じない方も多いと思うので、どのような活動か教えていただけますか。

Aさん: PUSHプロジェクトは、大阪ライフサポート協会を母体に、京都大学の先生が立ち上げた取り組みです。より簡単に、たくさんの人に胸骨圧迫とAEDの使い方を覚えてもらおうというもので、消防署や日赤の救命講習が3時間かかるのに対し、小学校の授業1コマ、45〜50分で終えられるように設計されています。映像を見ながら進めるので、インストラクターはほとんど喋らなくていい。

谷山: 知ったきっかけは何だったんですか。

Aさん: 2013年の終わり頃、地元のショッピングセンターで消防署の救急イベントがあって、心肺蘇生法とAEDの使い方を教える枠を担当していたんです。そこに小学6年生の女の子が来て、すごく真剣に取り組んでくれた。その子に「子ども向けに、簡単にできるものはないですか」と聞かれたんです。聞いたことがないなと思って家で調べたら、「あっぱくんライト」という、一人ひとりに行き渡る個別教材を使うPUSHコースにたどり着きました。これなら子どもたちに教えられる、学校の45分でやれるなら全然いいじゃないかと。それで講習を受けに行き、指導員の資格を取りました。

谷山: そこから学校へ広げていくのは、簡単ではなかったのでは。

Aさん: その子が先生に話を通してくれたのですが、当時は先生から「子どもたちに心肺蘇生法なんか必要ない」と言われました。いや、そういう問題じゃないだろうと思って、すぐ教育委員会に掛け合いに行ったんです。学校は教育委員会から言われないと動けないのが大前提ですから。そうしたら当時の室長さんがすごく興味を示してくださって、話をした3日後くらいに「あっぱくん買うわ」と、いきなり40個購入してくださった。市でやるかやらないか以前の段階だったのに、です。

谷山: その室長さんの動きもすごいですね。

Aさん: その方が校長先生の会議で講習のことを紹介してくださって、救命活動に関心のある校長先生の学校で、養護教諭の先生が「うちでやってみよう」と。実際にやらせてもらったら、他の学校からも先生が見学に来られるようになりました。養護教諭の先生方が「AEDは大事だよね」と一生懸命掛け合ってくださって、話し始めてから8年かかりましたが、小中学校、高校まで含めて学校で取り組めるようになったんです。その間に、中学の保健体育の教科書に心肺蘇生法の単元が入ったのですが、座学だけだった。「先生、それじゃダメだよ」と言ったのが始まりで、その中学の先生がさらに教育委員会に掛け合ってくださったこともありました。

谷山: なぜそこまでの手間をかけて動けたのか、根っこにある思いを伺いたいです。

Aさん: 一番最初に出会ったあの子です。心肺蘇生法にすごく真面目に取り組んでいて、なんとかしてあげたいなと思ってしまったんですよ。もともと医師か看護師になる夢があったみたいで、その子、現在は看護師になっています。それに、学校では圧倒的に先生の数より子どもたちの数のほうが多い。何かあったとき、最初に見つけるのは子どもである確率のほうが高いんです。子どもたちに胸骨圧迫をしてくださいと言っても難しい。だからまず「先生を呼んでくること」「AEDを持ってきてもらえるようにすること」から話し始めました。まずはAEDの存在を知ってもらいたかった。ASUKAモデルのこともありましたし、先生方にも子どもたちにも絶対に必要になると思っていましたから。

谷山: 第1回の記事でお話を伺った、明日香さんのお母様の桐田さんにつながるお話ですね。今、その活動はどうなっていますか。

Aさん: 活動をしている頃に、近くの医科大学の先生がインストラクターの資格を取ってくださって、その先生が医大生に声をかけてくれた結果、今では70名近い医大生がインストラクターになって、地域の小中学校で指導してくれています。だから僕はもうお役御免だなと。自分で区切りをつけて、次世代に任せる。ちょうどいいタイミングで退けたと思っています。

谷山: Aさんが地域に起こした風を、下の世代が紡いでいく。先日、桐田さんも「自分がやってきたことが、自分の世代だけで終わることが一番悲しい」とおっしゃっていました。僕もその思いをちゃんと受け取って、次の世代に伝えていきたいと、改めて考えさせられます。

Aさん: 頑張れるときは頑張って、次世代に託せるときが来たら素直にバトンタッチする。下の世代がまた自分たちでスキルを磨いて、つながっていけばいいなと思っています。

6年かけて実現した、市内コンビニ全店へのAED設置

谷山: Aさんは、まちのAED設置そのものも動かしてこられたんですよね。

Aさん: 僕の住む市では、当時、僕が知る限りAEDは公共施設にしかなくて、しかも屋内。他の市でコンビニエンスストアにAEDを設置した事例を知り合いから聞いて、これはうちの市にもと、市に働きかけ続けました。6年かかりましたね。最初は予算もなく「公共施設にあればいいでしょう」という反応でした。それが市長が代わったタイミングで再度話をしたら、新しい市長がそういうことに前向きな方で、予算から何から動いてくださって、半年後には市内のコンビニ全店にAEDが設置されたんです。

谷山: Aさんの発信を起点に、まち全体が動いたということですよね。すごいことです。

Aさん: 少しは違うなと思えました。あとは個人的な話ですが、以前、会社の社員寮の管理人をしていたことがあって。会社にはAEDがあるのに、40名が暮らす寮にはない。夜間や休日に何かあったらどうするのかと会社に掛け合ったんですが、「寮には必要ない、会社に取りに来て」と。走って片道4〜5分、往復10分かかっていたら元も子もありません。それで女房と話して、自分の小遣いを減らしていいからと、自費でAEDを購入して寮に置いていました。

谷山: ご自身で購入されたんですか。それだけAEDの必要性を確信されているということですね。

「一家に一台」の未来へ。販売店に期待すること

谷山: 最後に、GO!30 AED PROJECTや、AEDの販売店である弊社に期待することがあれば教えてください。

Aさん: AEDは本当にもっと普及してほしい。願わくば一軒に一台。何かあったときに、どこでもすぐAEDを取りに行ける、使える状況ができればとずっと思っています。ただ、今はまだ高額な機器です。これが本当にリーズナブルになっていってほしい。

谷山: そうですね。多くの方が集まる寮や集合住宅のようなところからでも、まずはもっと普及が進んでほしい。コストの面は、私も肝に銘じます。

Aさん: それと、僕の住む地域でAEDというと、警備会社のレンタルの宣伝をよく見かけます。それはそれでいいんですが、僕は「会社と人」ではなく「人と人」の関係が必要だと感じているんです。期限が切れたら消耗品が郵送されてくるだけ、というのは寂しい。何かあったときに聞きたいことも、疑問点もありますから。今日の谷山さんのように、人と人とのコミュニケーションがやっぱり必要なんだろうなと。

谷山: めちゃめちゃ嬉しいです。日本でAEDを販売しているのは警備会社経由が一番多くて、南九州でAEDを専業に販売しているのは弊社くらいなんです。弊社は消耗品交換のタイミングで必ず社員が伺って、自分たちで入れ替えて点検し、お客様と会話して帰る。置いて終わりにしない販売店が全国に広がってほしいと思っています。

Aさん: 絶対にそのほうがいい。

谷山: ありがとうございます。このプロジェクトは始まったばかりです。今後もコミュニケーションを取らせていただきながら、Aさんからもまた事例や面白い動きのアイデアをどんどんお寄せいただけるとありがたいです。本日は本当に貴重なお話ばかりで、ありがとうございました。

Aさん: 僕もこういう話をしたことはほとんどないんです。でも、こうやって周りに知ってもらうことも必要なのかなと思って。こちらこそ、ありがとうございました。

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